日本では絨毯やキリムというのは応接間の足元に敷くマットとして使われるか、あるいは美術工芸品として珍重されるかのどちらかだ。しかし遊牧の歴史をもつ民族にとってはまた別の意味も持っているのではないかと思う。
彼らはこの上で寝起きし、食事を取り、子供を育てる。文字通り絨毯と寝食を共にしているわけだ。厳しい自然に囲まれた広大無辺の荒野の中でただ一つの安らぎの場所。それがたかだか数メートル四方の絨毯の上なのだな。そんなことを考えると、彼らが絨毯にたいして抱いている感情はちょうど農耕定住民族が家に対して抱いているのと同じようなものではなかろうか。そしてそれが彼らの絨毯やキリムに対する情熱につながっていると思うのだ。